日本で注目を集めるプライベート・エクイティ、求められるスキルとは?
近年、日本でのプライベート・エクイティ(PE)業界への関心は、急速に高まっています。2024年には、PE関連の取引額は国内M&A取引全体の約30%を占め、取引総額は3兆円を超える規模に達しました [1]。総額が3兆円を上回るのは、これで4年連続となります。さらに、日本のPEおよびVC投資の総額は2023年から2024年にかけて40%増加し、アジア太平洋地域全体の投資総額全体の15% 超を占めるまでに拡大しています(2023年の10.6%から上昇)[2]。こうした市場の活況背景に、コンサルティングや金融機関、商社や事業会社の経営幹部など、幅広い分野でキャリアを築いてきたプロフェショナルが、次のステップとしてPEファンドへの転職を検討するケースが増えています。では、PE業界ではどのようなスキルが求められているのでしょうか。
PEのプロフェショナルは、大きく二つに分けられます。一つは、投資案件を発掘し、調査や分析を通じて資金の使い方を設計する「投資担当」です。もう一つは、PEファームが出資した企業で実際にエグゼクティブとして経営を担い、投資先の企業価値を最大化する「バリューアップ担当」です。本稿では、後者である投資先のバリューアップを担う経営陣に焦点を当て、数多くのPEファンドのエグゼクティブ採用を支援してきた立場から、PEファンドで働くプロフェショナルがどのような役割を果たしているのか、なぜ今、日本でPEが注目を集めているのか、ポートフォリオ企業の経営者として成功するために必要なスキルや資質とは何かについて解説します。
なぜ今、日本でPEが注目されているのか?
日本への投資の増加
日本市場におけるPEの存在感は年々高まっています。その背景には、市場の成長とともに、PEに対する企業や社会の見方の変化があります。
日本のPE業界は、およそ20年前に立ち上がりましたが、当初は仕組み自体が新しかったこともあり、多くの企業が業種を問わず、PEからの出資や支援を受け入れることに慎重で、業界全体の成長も緩やかなものでした。
しかし近年、この状況は大きく変化しています。現在では、日本企業がPEによる買収や投資をより前向きにとらえるようになり、これらの取引が日本経済のインフラの一部として定着しつつあります。その結果、PEファームをはじめ、買収対象となる企業(老舗企業を含む)、銀行、アドバイザリーやコンサルティング会社など、あらゆる関係者が買収・成長・イグジットの各段階で新たな協業の機会を積極的に模索しています。
実際、あらゆる指標が示す通り、日本におけるPE市場は急速に拡大しています。ベインキャピタル、KKR、カーライル、ブラックストーンなどの海外大手ファンドが日本向けファンドやチームを拡充する一方で、ウォーバーグ・ピンカスやアドベント、ヒルハウスのように新たに日本市場へ参入・再参入するプレーヤーも増えています。さらに、インテグラルや日本成長投資アライアンス(JGIA)など、国内勢の存在感も高まっています。
また、グローバル資金の流れが中国から日本にシフトする中で、資金調達の規模も拡大しています。その象徴として、投資家による日本向け資金の配分はこれまで以上に大きくなっており、アポロ・グローバル・マネジメントやアレス・マネジメントなど複数の企業が資金調達担当者の拠点を香港から東京へと移しています。効果的な資金調達には現地での強固なプレゼンスが欠かせず、この分野の資金調達担当者のほぼ100%が日本人であることも特徴です。
こうした日本におけるPE活動の急速な拡大は、すべてのステークホルダーに新たなビジネスチャンスをもたらす一方で、投資担当者やポートフォリオ企業の経営層、カーブアウトやその他の事業運営のリーダーなど、あらゆる分野で人材獲得競争の激化も引き起こしています。
PEに対する印象の変化
かつては「PEに株を持ってもらう」「PEに買収される」と聞くと、いわゆる”ハゲタカ”のようなネガティブな印象を抱く人も少なくありませんでした。しかし、近年ではこうした見方が大きく変わりつつあります。
日本では、事業承継に悩む企業が数多く存在します。良い事業を持ちながらも、後継者不在により存続が難しい企業に対し、PEが投資を行うことで事業を継続させるというケースが増えています。また、大企業が自社の中核事業に再投資するために、ノンコア事業を売却する場面でも、PEを活用することが一般的になってきました。
かつては、PEを活用するのは特殊な状況に限られていましたが、今では当たり前の選択肢として認識されるようになっています。投資を受ける企業にとっても、あるいは売却を検討する企業にとっても、選択肢のひとつとして必ず議論に上がる存在になっています。こうした事例の蓄積により、PEは企業の成長や再生を支える重要なプレーヤーとして定着しつつあります。
PEで求められるスキルとは?
日本市場で豊富な投資実績を有するPEファンドは、将来的な投資機会を見据え、特定業界に精通したインダストリーアドバイザーをはじめ、CFO、CHRO、CSOなどの主要なCxO候補のタレントプールを戦略的に構築しています。これにより、案件発生時には迅速かつ的確な体制構築が可能となり、価値創出プロセスのスピードと確度が飛躍的に高まります。
豊富な業界知見を持つシニアアドバイザーはディール検討の早期の段階から関与し、ターゲット企業や市場環境の分析、事業戦略立案などにおいて重要な役割を果たします。加えて、案件によっては投資完了後に会長やCEOなど経営の中核に就任し、成長戦略の実行をリードすることもあります。
PE業界で成功するには、リーダーとしての経験や専門性はもちろん不可欠ですが、それだけでは十分ではありません。PEファンドが関与する企業は、多くの場合、成長過程でさまざまな課題を抱え、変化に抵抗する組織であることが少なくありません。そのため、高い複雑性をマネジメントし、変革を促進できるマインドセットが求められます。計画を立てるだけでなく、それを確実に実行に移す能力も不可欠です。
最も重要なスキルの一つは、人を動かす力、すなわちリーダーシップです。どんなに優れた戦略やプランがあっても、社員がそれを理解し、自ら動かなければ変革は実現しません。例えば、日本企業で新しい人事制度を導入しても、社員が制度を活用しなければ期待される成果は出ません。PEが関わる場合、求められるスピード感で成果を出すためには、社員全員が同じゴールを共有し、同じ意識で動くことが不可欠です。
多くの人は、計画を描くことや改善案を提案することはできます。例えば、「オペレーションのここが課題だから、この仕組みを入れよう」といった具体策を提示することは可能です。しかし、実際に人を巻き込み、行動を変え、目標に向かわせることができる人材こそが、バリューアップ担当のPEには最も求められる存在です。
また、企業文化に合わせたリーダーシップスタイルも重要です。一口に「リーダーシップ」と言っても、効果的なスタイル(トップダウン型かボトムアップ型か)は企業によって大きく異なります。企業文化や組織構造に沿ったリーダーシップスタイルがなければ、どれだけ優れた施策を描いても、変革は進みにくくなります。
CFO、CHRO、CSOといったCレベル(執行役員クラス)の人材は、業界を跨って活躍できる方がいらっしゃいます。どのような企業文化の中で、どのような変革を主導し、どのような手法で成果を上げてきたか。その具体的な経験と実行力が、PEファンドにとっての重要な評価軸となります。中でも企業価値の向上に直結するトランスフォーメーションを成功させ、新しい企業文化の醸成をリードした実績を持つリーダーは、PEにとっての重要なアセットであり、投資先の変革を推進する不可欠な存在です。
一般的にCxOは専門分野での経験や専門性の高さが強調されがちですが、PEファンドの投資先ではそれに加え、ビジネス全体を俯瞰し、経営者や株主が描くゴールを具体的な戦略へと落とし込み、確実に遂行する能力が強く求められます。
さらに、PEにおける価値創出には、心の知能指数(EQ)などのソフトスキルも欠かせません。特に日本のビジネス環境では、言語能力も重要なツールとなります。投資家やポートフォリオチーム、アドバイザー、パートナー企業など、多様なステークホルダーと協働しながら合意を得て、異文化環境でも効果的に働けるバイリンガルのリーダーは高く評価されます。
PEファンドの投資先では限られた期間に大胆なトランスフォーメーションを遂行するケースが少なくありません。そのため、従来のやり方から新たな方法へと変化を促す過程では、一定の抵抗や摩擦、混乱が生じることもあります。こうした局面で求められるのは、高いコミュニケーション能力と、組織のあらゆるレイヤーに対して影響力を発揮できるリーダーシップです。過去に複雑な局面を乗り越えてきた経験、変化のフェーズごとに適応する戦術的柔軟性、そして人を動かすための共感力——これらを兼ね備えた総合的なリーダーシップが、短期間での企業価値向上を目指すPEファンドの成功において極めて重要な要素となります。
つまり、PEで求められる人材は、単に戦略を描けるだけではなく、人を動かし、組織を変革に導き、複雑な環境でも成果を出せるリーダーです。戦略や制度だけでは企業は変わりません。社員の意識と行動を変え、同じゴールに向かってチーム全体を動かすことができて初めて、真の価値創出(バリューアップ)が実現します。今後、PEが日本企業の変革を後押しする存在としてより重要になるにつれ、こうしたリーダーシップを備えた人材の価値はますます高まっていくでしょう。
執筆者
飯沼 綾(aiinuma@heidrick.com)はハイドリック&ストラグルズの金融プラクティスのメンバー。日本におけるPEおよびプロフェッショナルサービスプラクティスの責任者、およびリーガルプラクティスの責任者を務める。
参考資料
[1] セバスチャン・レイミー、大和梓、ジム・ヴェルベーテン(2025年6月5日)「4年連続で3兆円を超えた日本のプライベート・エクイティ市場―2025年も好調な滑り出し」ベイン・アンド・カンパニー。
[2] Dylan Thomas, Neel Hiteshbhai Bharucha, and Yuzo Yamaguchi, “Private equity investment in Japan soars,” S&P Global, January 28, 2025, spglobal.com.